目の前を、虹色の光が踊っている。
いくつもの光が舞い踊る、精霊の輪舞曲。
遠くのものも、近くのものも、すべての輪郭がぼやけ、意味を失っている。
「どう? 最高の気分でしょ?」
どこからか声が聞こえる。
だが、自分に向けられたその声が、一体どんな意味を持っているのか理解できない。
意味をなさない、不協和音。
だが、それすらも心地良い。
世界が自分を肯定している。
世界がボクを祝福している。
「無駄だよ、ソム姉。コイツ完全にキマっちゃってる」
意味の読み取れない福音。
光の向こうに、自分を覗きこむ顔が、ぼんやりと映る。
「いきなり大量に投与しすぎた。しばらくは会話すらできない」
頭上で交わされる光と音の群れが、至福の調べとなって世界を包み込む。
ボクも、その一部となって溶けていき、意識が拡散して世界と一つになる。
「そんなことないわ。よく聞いて、ジークルーネ」
ジークルーネ……。それが、自分を示す音だと、かろうじて思い出す。
「ジークルーネ、貴方は幸せ?」
幸せ? 世界中が自分を賛美しているのだ。これが幸福でなくてなんだと言うのか。
「そう、貴方は今満たされている」
満たされている。不足などない。当然だ。
「貴方を満たすものは、これよ?」
差し出された注射器。いや、そのように見えるプログラムだ。
輪郭のぼやけた光の世界の中で、なぜだかそれだけははっきりと認識できた。
「貴方は、これのおかげで満たされている。これがあるから幸福でいられる」
それが、そのプログラムが、ボクの幸福。
「そう、そうよ、よく覚えておいて……」